ノアの方舟に類似する神話、5選

世界には多くの神話が存在します。

その中には遠く離れた土地の神にもかかわらず、まるで示し合わせたかのように似たような内容が見受けられます。今回はそのいくつかを紹介します。


今回のテーマは「ノアの方舟」と類似する世界の神話です。ノアの方舟メソポタミア地方(今の中東)で発祥した物語ですが、似たような神話がヨーロッパをはじめとし、遠く離れた中国や南アメリカまで幅広い地域で神話の伝承が発見されています。


まずここではノアの方舟について、簡単に説明します。


神がいた。神は人間を作り出したものの、その人間があまりにも不道徳だったので神は失望し、人間をもう一度1から作り直すことを決心した。その方法は大洪水を巻き起こして人間を一掃すると言うもの。しかし、それでは人間だけではなく罪のない動物たちを殺してしまうことになるので神は憂いた。そこで神は唯一善良な人間であった「ノア」の一族に小さな箱舟を作るように命じ、動物たちを種類ごとに2匹ずつ乗せ大洪水をしのぐように命じた。そして大洪水になって一新された世界でノアを中心とした新たな人類創生が行われたのである。


このエピソードの、

・神が人間を創る

・洪水が起きて人間が一掃される

・船で生き残る者がいる

といったポイントに着目しながら他の国のエピソードを見ていきましょう。


ノアの方舟と類似する神話①マヤ神話


はじめ、世界には4人の神様だけが存在していた。4人の神は大地と動植物を作り、そして最後に人類を作った。しかし1回目の泥で作った人類はもろく、すぐにバラバラに割れてしまった。2回目に作った木彫りの人類は肢体が安定せず、また神に対する信仰心も全くなかった。そのため上は洪水を起こし、この木彫りの人間を飲み込んでしまった。3回目にとうもろこしで作られた人間は神と同等なほどの素晴らしい叡智を持って生まれた。神は創作物である人間に嫉妬し、人間のの目に息をふきかけて目を曇らせた。それ以来人類は世界の1部しか見ることができなくなった。


神様が人間を作り出すところから、神が失敗作の人間を洪水でリセットしてしまうところまでノアの方舟とはびっくりするほどに一致しています。神にとって洪水は失敗をなかったことにするリセットボタンのようなものだったのでしょうか。それにしても、神が嫉妬するほどの能力を持つ人間の原料がとうもろこしなのは、マヤの人々がとうもろこしを大事に思っていたことの表れのように感じられます。


ノアの方舟と類似する神話②ギリシア神話


かつてプロメーテウス(先見の明を持つ者)という神がいた。心優しきプロメーテウスは人類を創造し言葉や文字、田植えなどのさまざまな知識や技能を教えた。しかし、ゼウスは人類が火を使って戦争を引き起こすことを恐れていたため、人類から火を取り上げていた。自然界の猛威や寒さに怯える人類を哀れんだプロメーテウスはある日火を盗み出し、地上の人類にそれを渡した。激怒したゼウスはプロメーテウスをカウカーソス山の山頂に縛り付け、さらに海と地震を司る神ポセイドーンに大洪水を引き起こさせた。大洪水が近いことを予知したプロメーテウスは息子であるデウカリオーンとその奥さんのピュラーに船を作るよう助言した。洪水が過ぎ去ったあと、デウカリオーンはゼウスに供物をささげた。それからゼウスの言いつけに従って石を自分の後ろに投げると、石から男が誕生し、ピュラーが投げた石からは女が誕生した。

 

「怒れる神によって巻き起こされる洪水」と、「予言によって船を作り洪水を逃れる」、と言うくだりはほぼノアの方舟と同じと言って差し支えないでしょう。家事でも台風でもなく、水によって人類の浄化が行われるという発想は、ギリシャにおいても共通のようです。とはいえこの場合では人間は特に悪いことをしていないのに、神様同士の喧嘩に巻き込まれているのでちょっとかわいそうですね。いろいろな神がいて、それぞれが人間くさく喧嘩したり対立したりするのはギリシア神話ならではの部分と言えるでしょう。


ノアの方舟と類似する神話③インドの神話


ヴィシュヌ神の化身であるマツヤは魚の姿でマヌという人物の前に現れた。魚の姿のマツヤはマヌに近々大洪水が起きることを預言し、それを逃れるための船を作ることを勧めた。マヌはマツヤを育てて海に放ち、洪水が起きるとマツヤは海でマヌの船を牽引した。山あいにたどり着いたマヌ以外の人間は一掃され、マヌが人類の新たな始まりとなった。


こちらも洪水を神によって予言され、船で逃れることがそっくりです。動物が出てくるのもノアの方舟と類似点を感じます。大きく違うところは、洪水は神の意思によって起こされたことではないと言う部分です。神ですら止めることのできない洪水だったようです。筋書きはノアの方舟そのものと似ていますが、洪水がコントロール不可能であることによって、より古代の人間が洪水を恐れていたことが伝わってくるような気がします。


ノアの方舟と類似する神話①中国の神話


かつて、水を司る神共工(きょうこう)と火を司る神祝融(しゅくゆう)は大喧嘩をした。

祝融に負けたことに怒り狂った共工は思いっきり不周山へと体当たりし、崩落させた。しかし、不周山とは天を支える4つの柱のうちの1本。それにより天と地は大きくひび割れた。天にはぽっかりと穴があき、上にある天河の水は止めどなく地上へ流れ落ちてきた。

この惨事を目の当たりにした人類の創造神女媧(じょか)は天を直そうと決心する。そして五色の石をかき集め、それらを火にかけて精錬した。精錬の末、五色の石はドロっとした液体となった。女媧はその液体を大穴に向けてぶっかけ、すると金魚の光を放ちながら、天は補修された。


これは一見、ノアの方舟に見られるような要素があまり見受けられないように思われます。しかし、よく読んでみると、天から水が溢れて洪水が起きたことを他でもない人類作者の神が憂いていることから、つまり洪水は人類にとって大きな脅威になり得るということを暗に示しているということが分かります。中国神話もインドの神話と同様、人類を流し去ってしまう洪水への恐怖を読み取ることができますね。それにしても、天地を割りそこから水が溢れてくるというスケール感は桁違いです。


まとめ

ノアの方舟に類似する神話は世界に多く存在しています。その背景には、人間が洪水を災害の中でも特に恐れていたと言う事が推測されます。また、内容が似ている神話でも、それぞれの民族や国の個性が出ていて、とても面白く比較することができます。



ここまで読み、皆様はどうお考えでしょうか。もしかしたら、実は世界はひとり(あるいは幾人の)の同じ神によって作られていたのかもしれませんね。それでは。